Germination

予想していたどの感情とも違った。

病気だったのは知っていたから、こころのなかでずっと、いつかこういう日が来てしまうんだろうと気にしていた。突然だとは思わない。

 

わたしの世界は一夜のうちに、全く違うものに変わってしまった。

同じ世界を生きていた、繋いでいた手が余韻だけを残して気付いた時にはもう届かないところまで離れていった。

喪失感というより、不可逆で、雨が降って植物が育ち枯れて土に還るように自然なこと、その実感とショック。

新聞の一面に載る、名前とそれに続く言葉に感じた違和感を今でも思い出す。

 

訃報の後聴いた曲はGerminationだった。

光に向かって静かに枝を伸ばしていくように、ただ直向きに生きる木々、そのはじまりの曲。もう二度と同じ気持ちで聴けないと思っていたけど、彼の音楽はいつもと変わらず、わたしを一人きりにしてくれた。安心したけど、やっぱりとても哀しかった。彼はもういないのだ。

彼の書く、風や、木漏れ日や、アスファルト、いろんな色をした雨が好きだった。

痛みはしばらく消えないだろうけど、消えないまま、美談なんかにもしないまま、私は彼の音楽を好きでいつづける。

 

雨の日にあなたを思い出す。私の中のあなたは、立派な賞や、煌びやかなコンサートホールに値する音楽家としてのあなたではなく、美しいものを美しいまま誠実に伝えてくれるひとりの、心から信頼できる人だった。